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医療経済からひもとく骨粗鬆症治療の重要性
1. 医療費からみる骨粗鬆症治療の意義
【監修】そうえん整形外科 骨粗しょう症・リウマチクリニック 院長 宗圓 聰 先生
高齢化は、骨粗鬆症の患者増につながるとともに、わが国の医療費増大の要因のひとつに挙げられています。ここでは、医療経済的な観点から高齢化にともなう医療費増大と骨粗鬆症についてお届けいたします。
高齢化にともなう国民医療費の増大
日本の総人口(2019年9月15日現在推計)は1億2,617万人、前年比で26万人減少しています。一方で、65歳以上は3,588万人(前年比32万人増)、総人口に占める割合は28.4%と前年比で0.3ポイント上昇し過去最高となりました1)。このように、総人口に占める高齢者の割合が増える傾向は続くと予測されています1)。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、この割合は今後も上昇を続け、2025年には30.0%、2040年には35.3%になると見込まれています(図1)。
2018(平成30)年度の日本の国民医療費は43兆3,949億円であり、前年度より3,239億円増加しました(図2)2)。医療費全体の伸び率は0.8%、国内総生産(GDP)に対する比率は7.91%、国民所得(NI)に対する比率は10.73%となり、医療費総額は増加し続けています2)。また、同年度の医科診療医療費は31兆3,251億円で、年齢階級別にみると65歳以上では19兆6,860億円、占有率は62.8%でした。この割合は前年度の62.4%よりも拡大し、その伸び率は1.1%でした2)。高齢化の進展にともない、高齢者の医療費に占める割合も増加の一途をたどっています。
さらに、65歳以上の医科診療医療費を主傷病による傷病分類別でみると、循環器系疾患4兆8,123億円が最も多く、次いで新生物(腫瘍)2兆9,720億円、筋骨格系及び結合組織の疾患1兆7,383億円、損傷・中毒及びその他外因の影響1兆6,194億円、腎尿路生殖器系の疾患1兆4,217億円でした。65歳以上の高齢者では、骨粗鬆症を含む筋骨格系関連疾患が3位であり、対前年度増加率3.5%となっていることから、筋骨格系関連疾患は今後も医療費を増大させる要因のひとつとなると考えられます2)。
国際骨粗鬆症財団(IOF)は、骨粗鬆症の概要改訂第2版において、近年、骨粗鬆症患者数は急激に増大し、世界全体では50歳以上の女性の3人に1人、男性の5人に1人が脆弱性骨折のリスクを抱えている、としています3)。Johnellら4)の報告によると、2000年に世界全体で推定900万人の骨粗鬆症性骨折が生じ、そのうちの160万人が大腿骨近位部、170万人が橈骨、140万人が脊椎の骨折であったとしています。
日本では、2005年に開始された大規模住民コホートResearch on Osteoarthritis/osteoporosis Against Disability(ROAD)studyデータにおける診断部位別の骨粗鬆症の有病率は、腰椎では40歳以上の男性3.4%、同女性の19.2%、大腿骨頚部ではそれぞれ12.4%、26.5%と報告されています5)。また、年齢階層別にみた骨粗鬆症の有病率は40歳代以降に性別を問わず増加し、70歳代女性では30-40%に達すると報告されています(図3)5)。これを2005年度の年齢別人口構成にあてはめて日本の骨粗鬆症有病者数を推計すると、腰椎で診断した場合男性80万人、女性560万人、大腿骨頚部で診断した場合では、それぞれ260万人、810万人でした。これらを合わせて、腰椎あるいは大腿骨頚部のいずれかの診断とすると、男性300万人、女性980万人、合計1,280万人となります6)。
さらに、未治療患者の存在が懸念されています。Haginoらは、65歳以上の初発大腿骨近位部骨折女性患者2,328例を対象に骨折後1年間の追跡調査を行いました。その結果、153例に160の骨折イベントが生じ、77例が大腿骨近位部骨折を再度経験する一方、骨粗鬆症の治療を受けた患者は436例(18.7%)にとどまり、1,240例(53.3%)は、1年間にわたり治療を全く受けていなかったと報告しています7)。
骨粗鬆症の予防と薬物治療の費用対効果
骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版では、骨粗鬆症に対する予防として重要なことは、「まず第一に、成長期に最大骨量を獲得させて、高い最大骨量を獲得することである。次に、女性においては閉経後急速に骨量が減少するので、閉経後女性の急速な骨量減少者を早期にスクリーニングし、骨量のさらなる減少をくい止めることである。さらに骨量がすでに著しく低下している高齢者においては、骨量の維持とともに転倒の防止が重要である」としています。また、50歳以降の女性に対する骨密度検診の実施や高リスク者に対する薬物治療開始は、費用対効果に優れるという報告が紹介されています。また、二次骨折予防のための介入については複数の事例の費用節減効果が報告されています6)。
これらのことから、高齢化が進む我が国において、骨粗鬆症による骨折を防ぐために早期のスクリーニングと薬物治療介入をすることは医療費抑制といった経済的な観点からも重要であるといえるでしょう。
<参考文献>
- 総務省統計局ホームページ. 1.高齢者の人口.
(https://www.stat.go.jp/data/topics/topi1211.html)(2021年1月5日閲覧) - 厚生労働省ホームページ. 平成30年度 国民医療費の概況.
(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-iryohi/18/dl/data.pdf)(2021年1月15日閲覧) - IOF Compendium of Osteoporosis 2nd Edition of IOF Compendium of Osteoporosis.
(https://www.osteoporosis.foundation/sites/iofbonehealth/files/2020-01/IOF-Compendium-of-Osteoporosis-web-V02.pdf)(2021年1月5日閲覧) - Johnell O, et al. Osteoporos Int 2006; 17(12): 1726-1733
- 吉村典子. Jpn J Rehabil Med 2019; 56: 344-348
- 日本骨粗鬆症学会/日本骨代謝学会/骨粗鬆症財団 編集. 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版.
(http://www.josteo.com/ja/guideline/doc/15_1.pdf)(2021年1月5日閲覧) - Hagino H, et al. Calcif Tissue Int 2012; 90(1): 14-21