イベニティライブラリ
医療経済からひもとく骨粗鬆症治療の重要性
4. 骨粗鬆症性骨折患者の介護における
家族の経済的・精神的負担
【監修】そうえん整形外科 骨粗しょう症・リウマチクリニック 院長 宗圓 聰 先生
高齢者において介護が必要となる要因のひとつに骨折があげられており、骨粗鬆症性骨折患者が社会復帰するうえでは介護者によるサポートが欠かせません1)2)。しかしこれまで介護者の経済的・精神的負担についてはあまり注目されていませんでした。ここでは、骨粗鬆症性骨折患者の介護者の経済的・精神的負担に関して検討した日本における研究についてご紹介いたします。
日本における骨粗鬆症性骨折の現状
日本では高齢化に伴い骨粗鬆症患者が増加しており、骨粗鬆症性骨折の発生も増加しています。1990年代以降、年齢で補正した骨粗鬆症性大腿骨近位部骨折の発生率は50歳以上の男女でそれぞれ100,000人年あたり105、359から217、567に増加しています3)。2012~2014年の日本の健康調査であるNational Health and Wellness Surveyの解析では、骨折した骨粗鬆症患者では、骨折していない骨粗鬆症患者と比較して、健康関連QOL(HRQoL)が有意に低く、多くの医療資源の利用を必要とし、直接医療費が高いことが示されています4)。また、骨粗鬆症性骨折は患者の健康や医療費に影響を与えるだけでなく、多くの家族を含む介護資源を必要とします5)~7)。日本では骨粗鬆症性骨折患者の家族介護は一般的であり、家族の経済的負担が大きいことがわかっています8)。このたび行われた日本での調査により、骨粗鬆症性骨折患者の家族が抱える身体的・精神的負担や生産性の損失による経済的負担について具体的に明らかになりました9)。
骨粗鬆症性骨折患者介護者における実態調査(オンライン調査による横断的非介入研究)9)
骨粗鬆症性骨折患者の主介護者であり患者と同居している介護の専門ではない家族309名を対象に、オンライン調査を実施しました。対象者309名のうち55.0%(170名)が家庭内で唯一の介護者であり、1日平均4.6時間を介護に費やしていました。また、介護者の68.3%(211名)が介護のために就労状況を変えたと回答していました。
ZBI-22により検討した介護者の負担では、介護者の57.0%が中等度~重度の負担を感じていました(図1)。また、介護者の負担を骨折の部位別に検討したところ、介護を重度の負担と感じている介護者は、骨粗鬆症性骨折の主要部位である椎体骨折や大腿骨近位部骨折を有する患者の介護者が他の部位の骨折よりも多いことが示されました(図2)。
ZBI-22(Zarit介護負担尺度)
介護者が抱える精神・情緒的な負担、身体的な負担、社会生活および経済的な負担の程度を測定する尺度で22項目からなる。各々の項目を0(「ない」または「まったくない」)~4(「ほぼ常に」または「非常に」)の5段階で採点。スコアの合計は0~88点で、88点は介護者の負担が最も大きい。
また、SF-8により測定されたHRQoLは全下位尺度で50(日本人の平均)を下回っており(図3)、最もスコアが低かったのは社会生活機能(SF)で42.7、次いで体の痛み(BP)43.9でした。さらに身体的健康サマリースコア(PCS)、精神的健康サマリースコア(MCS)においては介護者の75%以上で50を下回っているという結果も示されました。したがって、骨粗鬆症性骨折患者の介護は介護者のHRQoLに大きな影響を及ぼし、多くの介護者が身体的・精神的健康度が低下していることがわかりました。
HRQoL
SF-8により測定される。SF-8は8個の下位尺度と2つのサマリースコアで成り立つ。日本人の標準値は平均50、標準偏差10。
WPAIによると、介護者の81.6%(252名)が雇用されており、前の1週間で介護のために就労時間の27.4%を休み、49.3%が出勤していても生産性低下がみられる状態でした。全体的な仕事の支障率は平均61.4%にのぼり、これを金銭的価値に変換すると10)週あたり43,317円の損失につながります。
WPAI(Work Productivity and Activity Impairment Questionnaire)
疾患や病状の労働生産性に対する影響を評価する自記式測定法。支障率(%)で表し数字が大きいほど支障が大きい(生産性低下)。
介護者の負担面からみた骨粗鬆症に対する早期介入の重要性
これまで骨粗鬆症性骨折が患者のQOLや医療費の増大に関連していることは報告されてきましたが4)、介護する家族の精神的・身体的負担、経済負担や損失に関しては検討されていませんでした。
このたびの調査結果から、介護している家族の負担度は大きく健康関連QOLが低いことが示唆されました。また、仕事に支障を来し週に約43,000円もの生産性の損失がみられることも示されています。このことから、骨粗鬆症性骨折が結果的に社会的な損失につながっていることが伺えます。
今後さらなる高齢化および骨粗鬆症患者の増加に伴い家族介護がますます増加することが予想され、これらの影響はより広範囲になると考えられます。骨粗鬆症性骨折の予防は患者のQOLやADLを改善するだけでなく介護者の精神的・身体的負担や経済的な損失を抑えるためにも重要であり、より一層の早期の薬物治療介入が望まれます。
<参考文献>
- Dorra HH, et al. Int J Psychiat Med 2002;32(3):249-259
- Johansson I, et al. Aging Clin Exp Res 1998;10(5):377-384
- Tsukutani Y, et al. Osteoporos Int 2015;26(9):2249-2255
- Fujiwara S, et al. J Bone Miner Metab 2019;37(2):307-318
- Kaffashian S, et al. Age Ageing 2011;40(5):602-607
- Adachi JD, et al. Osteoporos Int 2003;14(11):895-904
- Ioannidis G, et al. Can Med Assoc J 2009;181(5):265-271
- 岩崎 宏介. 日本における骨折による介護負担とその推移-官庁統計を用いた分析;Milliman Report 2019. (https://jp.milliman.com/ja-JP/insight/analysis-of-the-long-term-care-burden-related-to-bone-fractures-in-japan-an-analysis-base)(2021年3月26日閲覧)
- Soen S, et al. J Bone Miner Metab;published online 17 February 2021(https://doi.org/10.1007/s00774-020-01197-9)(2021年3月26日閲覧)
- 厚生労働省. 平成30年賃金構造基本統計調査 結果の概況. (https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2018/index.html)(2021年3月26日閲覧)